全産業にICT、情報通信技術が入り込もうとしている。
今やテストのカンニングにも情報通信技術が駆使されている。
冗談は程々にして、これはいわゆるDXというもの。
土木業界の場合、建築分野も含めて建設DXという。
他にも、自動車、エネルギー、医療、農業、教育など全世界、全産業がデジタルの世界にチェンジしている。
日本は世界から見ると遅れ気味かな〜という印象。
エストニアなんかはデジタル実験国というぐらいに進んでいる。
日本の場合、アナログ世界でも十分に幸せに暮らせるだけのインフラ環境が整ってしまっているが故に、お尻に火がついていない状況なのだろう。
本当は、牧歌的に日本だけは、今のままで十分と言いたいところだけど、そうはいかない。
これだけグローバル社会となり、日本の経済が世界と断絶しては成り立たないまでに結びつきが複雑で強くなった現代においては、世界のデジタルシフトについていかなければならない。
それに、人口減少化において、今のインフラを保つだけでもデジタル技術を駆使して生産性を上げなければ、今のインフラは維持できず崩壊してしまう、という状況に追い込まれつつある。
そういうわけで、今日は建設DXについて、書いてみる。
が、とても幅広いテーマなので、今回は建設DXの極々一部。
今後、頻繁にこのブログでも取り上げていきたい。
日経コンストラクションの新年号はいつも今年一年の土木分野のテーマが一覧となって掲載されているが、今年はデジタルが絡んだテーマばかりとなっている。
ざっと見てみると
・ドローンによるインフラ点検
・ICT施工、これの発展形が自律施工
・道路ビッグデータ活用による交通安全対策、渋滞対策
・道路ビッグデータプラットフォームの構築
・AI活用 →降雨予測、浸水予測、インフラ点検の画像診断
・EVの普及に向けたインフラ整備
・原則CIM化、つまり詳細設計での3次元モデル必須化
これらはどれも情報通信技術をインフラに取り入れたもの。
そして、一つ一つのテーマがとても深い。
日経コンストラクションの新年号に掲載された分野以外にもたくさんあるのだが、とりあえず今日は、ICT施工についてブログを書く。
さて、
少し前までは情報化施工という言い方をしていたが、最近はICT施工ということが多い。
まず現状はというと。
発注者別で見ると、国直轄事業は順調に増加している。
しかし、都道府県と政令市では、ここ数年は横ばいというところ。
なぜ、国直轄事業だけ増加しているのか、答えは単純。
規模が小さいから。
規模が小さいとなぜ、ICT施工が進まないのか。
手間ばっかりで儲からないし、設備を初期投資する資金もないし、日々の業務に負われて時間の余力もない。
だから、発注者指定型の場合、コスト増となってもやらざるを得ないが、そうでなければ、そんなところに資金はつぎ込めない。
実際、会社の規模は入札参加資格の格付け制度でAランク、Bランク、Cランク、Dランクと分かれるが、A、Bランクの建設業者の場合、90%がICT施工の経験があるが、Dランクでは、10%に満たない状況となる。
具体的にICT施工を説明する。
基本的にはICT建機を使って施工する。
ICT建機とは、重機が自らの位置を認識し、目標とする施工基面と現地盤との差異を認識して、目標の高さや位置まで掘削したり、盛土したりしてくれる重機のこと。
今、ぼくはICTバックホウやICTブルドーザーをイメージして記述した。
他にも、ICT転圧ローラーやICTグレーダーやICTフィニッシャもある。
ここで、疑問が出るが、どれも土工事や浚渫工事、舗装工事などばかりではないか、と思われるが、それはそうである。
型枠職人や型枠の中に鉄筋を組んでいく作業、生コン打設、その後の仕上げなどは完全な職人の世界で、一つ一つ現地で手作業をしている工程。
これは、今後数十年はICT施工にはならないと思っている。
それができるようになるときは、街中にロボットが歩き回っている世界になった時だろう。
だから、現段階では、施工面が広く、かなりのボリュームがあるような土工事や舗装工事に限られてくる。
ただ、国交省は浚渫工事や構造物工事にも取り入れていきたい思いはあるようだ。
それはまた、いつか調べて書くことにして。
さて、
土工事で使われるICTバックホウとはどのようなものか?
簡単にいうと、自らの位置と目標仕上がり面のデータと現地を認識して動いてくれる重機。
ちなみに、ICT建機が自らの位置を知る手段はRTKーGNSS。
これは、人工衛星を使った測位システムのこと。
GPSはアメリカの衛星の名称だが、そのほか、日本ではQZSSという名の準天頂衛星があり、愛称は「みちびき」といい、EUの衛星はガリレオという。
これら人工衛星を使った測位システムの総称をGNSSという。
このように、各国の衛星の電波を受信して、建機は自分の位置を地球上のどこにいるのかを認識する。
衛星は4つ使うらしい。
その時に、単独測位という方法、これは重機が単に4つの衛星から電波を受信する方法になるが、この場合、誤差が数メートル出てしまう。
これでは、土木の施工では使えない。
そのため、衛星4つを使うのは同じだが、付近の既知点(あらかじめ、地球上のどこに位置するのか把握している点)にも受信機を置き、既知点を衛星電波で計測した時の誤差から、その周辺では衛星電波がどのくらいズレているのか、ズレ具合を把握し、ズレを補正することで正確な位置を把握できる方法をとる。
こちらを相対測位といい、この場合、誤差は数センチメートルにおさまる。
自らの正確な位置を把握した重機は、次に重機にインプットされた施工目標基面のデータに基づき、バックホウであれば自らが掘削面にバケットを差し込み、掘削してくれる代物。
こちらはマシンコントロール機能付きICTバックホウという。
似たような名前のマシンガイダンス機能付きのICTバックホウというものもある。
こちらは、オペレーターが実際に重機を動かすのだが、重機がどの位置まで掘削するのかを教えてくれる。
これらのメリットは、まず丁張りというオペレーターが目安とする物を設置しなくて良いこと。
丁張りは元請社員や測量業者が設置するが、これがかなりの手間だったり、オペレーターを待たせたりと、時間ロスも発生する。
さらに、オペレーターという職人の技術に作用されずに目標物を仕上げることができること。
他にも、近くで手元作業員や測量員がいないので接触事故を起こす心配がないこと、などが挙げられる。
弱点もある。
衛星電波をキャッチしなければならず、上空が45度以上開けていないといけない。
ビル群の間では使えない。
同様にトンネル内や構造物内でも自らの位置を把握できなくなってしまう。
他にも、事前にに精密な3次元データが必要となる。
中々どうして、条件がたくさん付くということ。
もっと弱点をいうと、ICT建機をリースするのはとても高価ということ。
一説には、0.7m3バックホウが1台で70万円/月くらいのリース料らしい。
通常の3倍以上の値段である。
そして、慣れないうちは施工量も、おそらく従来型の方が大きいくらいだろう。
ただし、これらの弱点はあくまで過渡期だからと思われる。
需要が増えれば、やがてリース料も下がり、使い慣れてこれば、作業量も増えるはずである。
そして、これを国が進める理由は、やはり担い手不足の対応という側面もある。
オペレーターがいない、丁張りをかける社員が足りない、となってくると、どうしても機械化せざるを得ないだろう。
リース料よりも人件費の方が高くなるくらいに人手不足となる状況は確実にくると思われる。
ところで、土木現場でICT施工の発展形の自律施工というものがすごい。
これは建設現場を工場のようにオートメーションで成果物を作ろうという試み。
もちろん、型枠や鉄筋組みを機械化しよう、ということではない。
イメージとしては複数台の無人重機が無人の現場の中、自由に動き回っている感じ。
もう、車の完全自動運転の上をいってるような気になるが、それはあくまで工事現場内という閉じられた空間だからなのだが。
これは鹿島建設などの大手建設会社が取り組んでいる。
具体的には、無人ダンプが土砂を下ろし、それを無人ブルドーザーが敷き均し、後ろから無人振動ローラーが転圧をしていく。
この3台を1セットとすると、一つの現場に5セットとかが縦横無尽に動き回る世界。
この辺りになると、未来のロボット社会を彷彿とさせる光景になるが、今日も3000文字を超えてきたので、このへんにしておく。
鹿島の自律施工については、また別の機会に書こうと思う。
とにかく、デジタルに強くならなければと、生きていけない社会がきている。
ということ。