前回に引き続き、今日は国土強靭化について技術士論文(必須)の模範解答を見ながら感想をメモることにする。
模範解答は下記の「株式会社 技術士合格への道研究所」のHPに掲載されている。
技術士試験合格講座「 技術士二次試験模範解答 2019年 建設 必須科目」
技術士の令和元年の過去問(必須)より問題文を簡単におさらいしておく。
まとめると
➊国土強靭化を進める上で多面的な観点から課題を洗い出す。
➋洗い出した課題から最重要なものを一つあげてその解決策を複数書く。
❸複数の解決策を実行するうえでの共通リスクを書く。
➍解決策を実行する上での要件を倫理、持続可能性の観点から書く。
さて、このHPでの模範解答を見る。
まずは➊の国土強靭化に向けての多面的な観点からの課題抽出について。
『』はHPより引用。
つまり『』箇所は、模範解答をコピペしている。それに対する、ぼくなりの感想を書き込む形で勉強していくことにする。
『(1)想定を超える大規模自然災害に対する課題
1)老朽化インフラのメンテナンス
道路、河川、海岸施設等の老朽化により災害が拡大する可能性があり、効率的な維持管理・更新を行い、ストック効果を最大限に発揮することが課題』
→ 想定外をなくすための老朽化対策。確かに、筆頭に挙げられる課題と思う。
ぼくは前にブログで、老朽化は災害時に機能をしっかりと果たすことができないことが課題と書いたけど、よくよく考えると、この時点ではまだ「課題」ではなく「問題」にしかなっていないと思われるので、そのために、どのような方向性で進むのか、そのときの留意点やハードルを書かなければ「課題」にはならない。
例えば、予防保全を徹底することを➋の解決策に書く場合、課題としては、社会保障費の増大によるインフラ施設への予算配分が削られる中においても、インフラメンテナンスを行っていかなければならない、などといった書き方が必要だった。(=このままでは適切なインフラメンテナンスができなくなる可能性がある=ハードルや留意点を書くことで課題には変わる)
この模範解答では、効率的な維持管理、更新とストック効果を最大限発揮することが課題と書かれており、さすがである。
『』はHPより引用
『 2)ソフト対策の精度向上
ハード対策を優先的に実施するための土砂災害予測の精度向上と、住民自らが行動を起こすためのソフト対策が必要』
→ 2つ目の課題としてソフト対策を持ってきているのか。
確かに、ソフト対策にも多くの課題があり、ここでは、ハード対策の優先順位を定めるための土砂災害予測の精度向上と、自助、共助を促す住民自らが行動を起こすための対策を挙げている。
もしぼくがソフト対策というテーマで書くのなら、立地適正化計画による浸水想定区域と居住誘導区域の重複を課題として追加したい。
『』はHPより引用
『 3)想定外の外力に対するハード対策
施設が完全に破壊するのを防ぎ、住民が避難するリードタイムを確保することが必要』
→ 想定外の外力に対する備えを持ってきているが、これは2)のソフト対策の精度向上と似たような解決策になるような気がする。
ぼくがこの課題設定で解決策を書くとしたら解決策が似たようなものになりそう。
その理由は、想定外の外力への備えとは、防災意識社会の構築を意味している、と思われるから。
施設で防ぎきれない災害は必ずやってくるという想定のもと、社会全体で災害に備えるという社会である。
これはまさにハードとソフトの総動員による災害対策である。
なので、ぼくは解決策で防災意識社会を書くのであれば、2)のソフト対策を削除して、別のものに置き換えるかもしれない。
例えば、緊急輸送道路などの施設の致命的損傷による災害時の応急復旧の復興への障害への対応などでも良い。
この場合の課題としては、地元建設業者の減少が大きい。
一見すると地元建設業者の減少がなぜ、災害時の課題となるのか、少し関連が遠い気がするが、そこは文章でつなげていくことが求められる。
『』はHPより引用
ここからは➋の最も重要な課題とその複数の解決策に入る。
『(2)想定外を超える大規模自然災害に対する課題と解決策
ソフト対策の精度向上と住民自らが行動を起こすための取組み』
→ 最も重要な課題を想定外を超える災害への備えとソフト対策を挙げられている。
最も重要な課題を選べ、という問題文なのに、2つの課題を挙げている。
一つに絞れない、ということだろう。
これは採点者にどのように執られるのか不明。
『』はHPより引用
『 1)リアルな情報提供
実写に土砂災害箇所を重ねたリアルなハザードマップの提供』
→ 解決策の一つ目はが実写に土砂災害か所を重ねたハザードマップを解決策として挙げている。
これには少し疑問がある。
土砂災害予測の精度向上のための対策とは、より技術的な見地から答えるべきと思うから。
実際に、解決策のようにして既にハザードマップは作成しているだろうから、既に対策済みと思われる。
もし、予測の精度向上であれば(現在のゲリラ豪雨は予測できないからゲリラなのだが)それを少しでも早くに察知することができれば、ダムの緊急放流を開始することができるダムの数が増える。
土砂災害をより精緻に予測ができれば、より正確な避難指示を発出することができ、それは住民が避難行動を起こす際のよりどころにすることができる。
現在は、避難指示が出ても肩透かしが多くて、信頼性がないことも問題としており、それを予測技術の向上ではなく、避難指示の発出方法を変えることで対応しているのが現状。
現に先日の報道では、避難勧告を廃止し避難指示に一本化するとされていた。
災害予測の向上は難しい。
ぼくが書くのであれば、災害の想定外をなくしたハザードマップの作成を早急に行い、あらゆる手段で住民への周知を行うこと。
『』はHPより引用
『 2)精度の高い情報提供
洪水シミュレーションや干渉SARによる土砂災害予測精度の向上により、優先すべきハード対策を選定』
→ 土砂災害に限定しているのが少し気になるが、災害予測を向上させることで、優先すべきハード対策を決定していくことを解決策としている。
ん~やはり気になるのが、土砂災害予測の精度を向上することが困難であることと、この課題解決は気象庁の管轄になり技術士のテリトリーではない、ということ。
ぼくが書くならば、気候変動の影響により、河川の基本高水が変わるなど河川整備計画で施設整備の基準のされていた河川流量に変化が生じていること。
そのため、気候変動による雨量の変化を砂防施設、河川整備計画に反映したのち、ハード整備の規模を見直すことが必要になってくるとともに、立地適正化計画などまちづくり施策とも一体となった防災対策を実施すべきと考える。
『』はHPより引用
『3)具体的な情報提供
地域を絞りこみ、具体的な災害情報を提供』
→ 地域を絞り込むの意図するところが分からない。
理由、手法、メリットが分からない。
『』はHPより引用
『4)地域コミュニケーションの強化
防災教育の開催、防災リーダーを定め自助・共助による被害の軽減』
→ 自助、共助を強化することはぼくも論文では書きたい、と思っている。
ただし、この解決策は、1)とセットになってしまうような気がする。
防災教育でも防災訓練でも良い。
ただ、どのように防災教育をするのか、どんな防災訓練が必要なのか、防災リーダーをどうやって選び、誰が請け負ってくれるのか、という点が不明。
ぼくが書くのであれば、1)とセットになるが、マイタイムラインの作成を町内をあげて実施する枠組みを作る。
どのようなハザードが想定されるのか、その場合はどのような避難行動を執ることがベストなのかをそれぞれ個人で、自宅から自ら避難すべき施設までの道のり、時間、準備すべきものなど考えてもらう。
その場合、行政機関がファシリテーターのような役割を担えれば良いが、市役所の職員の人数にも限りがあるため、すべての町内会に参加することはできない。
必然的に町内会長の集まりなどで説明して、最終的には町内会長がリーダーシップを発揮する必要があるだろう。
地域によっては消防団が適任かもしれない。
続いて❸の共通するリスクとその対策に入る
『』はHPより引用
『(3)上記課題のリスクと対策
1)リスク
①温暖化に伴う気候パターンの変化により、1000年確率豪雨規模の災害が発生
②頻発する広域豪雨災害により避難者が増加し、避難所の受け入れ能力を超える』
2)対策
①想定内の豪雨、最大限の豪雨に対する被害想定を実施
②道路の混雑状況をリアルタイムで提供』
→ ん~上記の二つは、今回の解決策を執ることにより新たに発生するリスクではないと思う。
気候変動による降雨変化は➋の解決策で書かなければいけないと思う。
また、避難者の受け入れ能力オーバーの問題も、➋で書かれた解決策を実行することで発生するリスクではない、と思う。
ぼくが書くのであれば、ハード整備の限界を見極めることができない場合、ソフト対策とハード整備の一体による効果が弱まることはリスクである。
どこまでをハードで備え、どの段階を超えたときにソフトで守るのか、その役割分担を見極めることが必要であり、そのためには、より正確な雨量予測や土砂災害の危険性などをより細かい範囲で想定外がないよう把握することが重要となる。
避難所に関しては、このご時世、新型コロナ対策をどこまで盛り込むのか気になるところではある。
3密を避けるためのソーシャルディスタンスを保たなければ、せっかくマイタイムラインを作成しておいて、やっとの思いで避難してきたというのに、避難所で感染症にかかってはいけない。
やはり、従来の学校の講堂や体育館だけでなく、あらゆる施設、公共も民間も含めて避難所とするくらいの覚悟が必要だろう。
ただ、救援物資や安否確認など、避難所が分散することによる手間は増大する。
ICTを活用することで安否確認などの手間を省けるところは省く、といった新技術の活用も必要になるだろう。
最後に➍の上記を実行するにあたっての技術者倫理と持続可能性の観点からの要件について。
『』はHPより引用
『(4)業務として遂行するにあたり必要となる要件
1)最先端の技術の提供(技術者倫理)
技術者は専門分野の新しい情報を得て、国民の安全・安心に寄与する必要がある。AIやICTの最新技術を活用し、精度の高い避難シミュレーション技術の開発
2)持続可能なまちづくり
リアルで精度の高い情報を提供する高度な防災教育活動により、逃げ遅れ被害をなくすまちづくりを推進する。』
→ ここもピンとこない。
上記の要件として新技術を活用することと、防災教育で逃げ遅れをなくすまちづくり?
模範解答者の言わんとするところを読み取ることができない。
もう一度確認しておくと、
国土強靭化に向けて最も重要な課題は
・想定外の災害に対し、住民自らが行動を起こすこと
解決策としては
・リアルなハザードマップ → ぼくが書くと、想定外をなくしたハザードマップの作成と周知
・災害予測情報の精度向上により優先的なハード整備を選定 → ぼくが書くと、ハードとソフトの総動員
・防災教育の充実 → ぼくぎ書くなら、町内会長をリーダーとしてマイタイムラインの作成
共通リスクは
・気候変動により想定外が発生が共通リスクで対策が最大限を想定する
・避難所のキャパ越えが共通リスクで道路情報の提供
ぼくが書くなら、リスクは、ハードのみで対応しようとすることで、対策としてはハードとソフトのそれぞれの限界を見極めること
そして、以上の解決策を実行する上での要件だが、ぼくが書くなら、技術者倫理と持続可能性を併せて書くことになるが、一つは、慢心しないこと。
災害時にインフラが致命傷を受けてしまえば応急復旧も復興もままならない。
人命第一を忘れずに、あらゆる利用者の目線に立ったインフラメンテナンスを進めることが必要である。
女性、高齢者、障害者などあらゆる人が避難に使う避難路の整備などでは、誰も取り残さないという思いを持って計画を進めることが求められている。
そして、ハードで防ぎきる計画を立てるのではなく、全体最適を考えること。
ヒト、モノ、カネ、ジカン、人命、これらを災害リスクを見極めながら、全体として最適になるよう計画すること。
100年後に100点を取るよりも、3年後に80点を目指すことが求められる場合が多い。ハード部局だけでなくソフト部局とも連携をとって、全体最適を考えた防災に強いまちづくりをすすめることが重要。
こんな感じのことを書くと思う。
今日も好き放題に書いたけど、他の人が書いた模範解答を見るのはとても勉強になる。
しばらくはこの方法を続けよう。
とりあえず、生産性向上と国土強靭化については。