先月末、土木学会が公共インフラのメンテンナンスについて、新技術の適用について提言を行った。
簡単にいってしまえば、限られた資源(金も人も)の中、効率よく維持するには、発注機関が新技術を受け入れることが重要だ、というもの。
提言では、新技術の受け入れの前提として、性能規定の発注を求めている。
どういうことかという、役所が発注するとき、これまでは役所自身が材料や構造の仕様まで決めていた。
これでは、民間が提案する余地は限られてしまう。
だから、性能規定の発注では、役所は性能だけを規程して発注する。
受注者は、この性能に合うように材料や構造、工法などを自由に提案できるようにする、というもの。
提言では役所もその提案を受け入れられるような対策も考えられている。
従来、役所はこれまで使われたことのないような新技術を使うことには及び腰だった。
それを回避するための対策である。
新たな提案が受注者からなされた場合の確認項目を示してあげた、ということである。
耐荷力、耐久性、安全性、使用性、環境性能、施工性などの確認によって安全や品質を担保していこう、という内容。
役所は安全性や品質性が担保されるのなら、何も反対する理由はない。
それが分からなかったから、受け入れずらかっただけなのである。
提言の内容は、性能規定のほかにも、設計施工一括方式、PFI/PPP、ECI方式など多様な発注形態にまで及んでいる。
このブログでは、これからのインフラの在り方について、ぼくなりの考えの軸を持つため、という目的で始めたもの。
最近は、技術士の勉強過程のメモが多くなってきたけど、技術士の資格取得の目的も、インフラはどうあるべきかを考えるためである。
まぁ、本当のところは、資格取ったからといって、その資格では食っていけない、という実情があるんだけど・・・。
話が逸れた。
ぼくの中では、新技術の活用促進がこれからの日本を救うことになるのではないか、と思っているくらい、インフラ施策の中ではプライオリティの高いテーマだと思っている。
ただ、新技術も昔から言われている。
それでも、普段の仕事をしていても一向に仕事の進め方が変わっていかない。
i-Constructionだって、ぼくの身の回りでは進んでいない。
でも、国交省ののHPには、新技術一覧がNETISにカタログ的に記載されている。
NETISはNew Technology Information Systemの略。
実はこれ、原型は平成10年から運用されているもの。
それから20年近く経っても、それほど活用されているという実感がない。
理由は簡単。
まず一つは、発注者によって材料や構造が決められた形で発注されてきたので、受注者は新技術を提案する機会もなかった、ということ。
これについては、記事の冒頭で書いた土木学会の提言がまさに、それを踏まえたものだと思う。
もう一つは、受注者が提案するには、高いハードルがあるということ。
土木工学は経験工学といわれるように、経験がものをいう社会。
若手はベテランと共に行動して、ワザを盗んで学ぶ、これが連綿と繰り返されてきた、という歴史を持っている。
そして、この職人気質というのが日本人の美学にとてもマッチしてきた、ということ。
新技術が実装されてこなかった原因は受注者側だけではない。
発注者も同様である。
受注者が提案しても、その材料なり工法を受けれいる素養がなかった、ということ。
これも理由は明白。
リスクを少しも取る必要がない状況にあるのに、好き好んで新しい挑戦を受け入れることをする必要性に迫られてこなかった、ということ。
安全が担保されていない、品質基準を満たす保証がない、仕事は趣味でやるものではない、というこれまた不思議な美学が入り込んだりして、そんなことなら、これまで通りでいいや、といわゆる前例踏襲が続いてきた、そんなところだろう。
それなら、どうすりゃいいんだ?
となって、先ほどの土木学会の提言なんだろうけど、何も民間団体だけ、この現状に不安を抱いてるわけではない。
それが国交省の2日前の発表。
道路分野における新技術導入促進計画の発表。
新技術導入促進機関の発表。
少し中身を見てみる。
まず、良い技術は使おう、という大方針。
そして、異業種、他分野も含める、とある。
これが大事だと思う。
現在、〇〇 × テック が流行っている。
フィンテック、アグリテック、エドテック・・・
車をグーグルが作り出す時代、塾講師よりもAI先生に習った方が成績が良くなる時代、テクノロジーが全産業に組み込まれていく。
これまで、建設業にまったく関わりのなかったスタートアップが、建設業界に参入しはじめている。
当然の流れだと思う。
金融にしても、農業、教育にしても、ICTについては何も知らないわけで、活用の仕方が分からない。
だから、ICTベンチャーが他業種に入り込んでいくことは自然の流れ。
ただ、建設業界のICT化に向けては、金融や農業と違う側面がある。
建設業界は、職人の世界だったことともう一つ。
公共事業としてお上から発注されるという形態、税金によって生きてきた、ということ。
民のお金を奪い合う世界ではなく、納税されたお金を談合社会によって、分け合ってきたきた世界だということ。
誤解しないでほしいのは、談合が悪い、というのではない・・・
いやいや、談合はダメか・・・その話はまたどこかでメモりたい。
話を戻す。
建設業界に変革をもたらす圧力が少なかったということ。
民主党政権下でどれだけ公共投資予算を削られても、その予算の中でやれば良いんでしょ、となってきた。
削られた予算の中、何とかして、これまでと同規模の施設を整備する、だとか、これまでと同規模の施設をメンテする、といった気持ちそのものが起こらなかった。
受注者側には、マクロ的にみてインフラ施設の老朽化という全体像が見えない。
そんな状況の中、あえて安い金額で請け負ったのに、これまでと同規模のメンテをなんとかこなそう、という意思は生まれない。
そんなことすれば自社の社員が疲弊するだけ。
発注者側に大きな責任がある、とぼくは思っている。
その理由は、施設の全体像を大まかには把握していたのではないか?
であれば、予算が減っていけば、整備が進まない、いずれは、メンテができず施設の破損を防ぐことができなくなる、こういったことを薄々感じていたんではなかろうか?
そう薄々。
薄々気づいてはいたんだけど、新技術の実装のような厄介な仕事を増やしてまで、効率性を求めるようなことをしてこなかった、これが本当のところではないか、と思っている。
畢竟、建設業界には、新技術を導入するインセンティブが働きにくかった、ということ。
長くなってしまったけど、今回の新技術導入促進計画、どれだけ実効性があるかどうかは運用しだい。
でも、本当は運用しだいではダメなんだけど・・・。
運用に任せると、建設業界の場合、さっき書いたことになるので。
脱線ばかりして、なかなか新技術導入促進計画の中身が進んでいかない。
一気に中身を見ていく。
まず、令和2年度は11テーマに絞って技術の公募や意見交換を進める、とのこと。
無数のテーマで公募して技術が出そろっても、役所も民間も活用しなければ、意味がない。
技術を開発した企業も開発費が無駄になり、こんな割りに合わない世界ならやってられない、と撤退してしまうかもしれない。
だから、絞って11テーマ。
この11テーマはしっかり、実装していくぞ!という意気込みを込めてのことだろう。
昨年からの継続4テーマ。
新規7テーマ。計11テーマ。
継続の中には、橋梁やトンネルの点検支援技術が含まれている。
数年前に、橋梁の点検技術は5年に一度の法定点検が義務化された。
しかし、小規模自治体では、人もお金も技術も足りず、この義務化がうまく機能しているのか微妙なところである。
小規模自治体の課題に対し、二年前、これまでの近接目視の要件を緩和して、同等の精度を保てると判断できるときは、新技術の導入が可能とする改定がなされた。
しかし、同等の精度をどうやって判断する?誰が判断する?
という課題が新たに生まれていた。
今回の計画では、新たに導入促進機関というものを公募により選定し、その機関において、これらの課題を取りまとめることとなった。
他、新規テーマでは、道の駅の防災拠点としての防災性向上技術などが選定された。
道の駅・・・については、導入促進機関として(一財)日本みち研究所が担うことになった。
この研究所も中々面白いところで、こちらについてもいつかこのブログで書きたい。
少し、最後は駆け足でメモっていった。
今回は道路分野についてであるが、建設業界の新技術導入というのは、避けられないテーマ。
また、今日のブログでは書かなかったけど、国交省の関東地方整備局が発注する工事は、5月1日以降、全件で新技術の導入を求めることを先日、発表している。
ようやく国も本気で動き出したと思う。
これからも、この種の報道は、ベンチマークしていきたい。