企業にとってカーボンニュートラルの取組は、従来は加点要素だったが、現在は、取り組まないと認めてもらえない減点要素となっている。
投資分野では、従来の財務情報だけでなく、環境、社会、ガバナンス要素を考慮するESG投資が拡大している。
アメリカのアップルは、2030年までにサプライチェーン全体でカーボンニュートラルを達成する、と宣言している。
つまり、アップルはサプライヤーにもカーボンニュートラルを求めている。
そんな中、今回は地域に目を向けてみる。
地域新電力について調べてみる。
今日は下記の本を読んでメモしながら頭を整理していく。
といっても、下記の本を読んで大事そうな部分を書き写していくイメージである。
この本のアイデアをメモしていく、ということ。
「地域新電力 脱炭素で稼ぐまちをつくる方法」 著者 稲垣憲治 (学芸出版社)
著者は、文科省、東京都庁を経て、現在は一般社団法人ローカルグッド創成支援機構事務局長という立場。
さて、私の理解は
地域新電力には自治体が絡むものと絡まないものがある。
が、この本は自治体が絡むものを地域新電力と呼んでいる。
さて、規模はどうだろうか。読み進めてみよう。
全国の電気事業者の販売電力量は8.5億MWh。
このうち、地域新電力は232万MWh。シェアは0.3%程度。
規模はまだまだ小さい。
契約としては、高圧が多く、次に低圧、最後にほんの少しだけ特別高圧となっている。
高圧が多い理由は、公共施設の高圧→低圧ときてから、民間施設の高圧→低圧という順序で範囲が広がっていくかららしい。
これから地域新電力(自治体新電力)が地域の脱炭素を担っていくことも考えられる。
自治体が策定している温対法による地方公共団体実行計画にも位置付けている自治体もあるそうだ(秩父市、生駒市)
・オンサイトPPA
・小水力発電
・省エネ診断
・断熱改修
このような地域脱炭素事業を地域新電力が担えるのではないか、という。
しかし、地域新電力に課題がないわけではない。
例えば、地域新電力の電力供給先は自治体が大半だが、自治体は電力の調達先を随意契約で新電力に決定している。
自治体は大手の電力会社から電気を購入した方が安い場合もある。
自治体が割高な電気料金を支払う意義が必要となる。
それだけ、地産地消や域内雇用、防災面など経済効果を示さなければならない。
地域新電力の利益を寄付するという地域還元では補えない金額差となっている。
そのためには、ノウハウを自社で蓄積し、太陽光発電の管理も自社で行うレベルの内製化が必要となるのだそうだ。
福島県葛尾村と福島発電㈱の葛尾創成電力などは、内製化を行っているとの紹介がある。
さて、読み進めてみよう。
〇 自治体がエネルギー政策に注力する理由
まずは理由はどんなものか見てみる。
① 地域経済の循環
これまでのまちづくりの事業の主軸は、外貨を稼ぐことだった。
一方で、地域内で消費するエネルギー代金は、海外に出て行ってしまっている。
これを地域での再エネや地域新電力によって地域で循環させることで、外貨を稼ぐことと同様に効果があるとのこと。
つまり、お金を増やすのではなく、減っている元を絶とう、という考え。
現在、地域エネルギーに取り組み始めている自治体は全体の27%ということで、約1/4の自治体が何らかの取組を始めている。
※参考 環境省の地域経済循環分析ツールを活用することができるらしい。
これで、エネルギー代金の流出状況、再エネ事業を行った場合の資金流出抑制の影響などを把握できる
事例として
太陽光発電は5000kWの導入
188人の移住者、700人の子供増加、18880人の観光客増加と同等の経済波及効果が見込まれる。
ただし、条件があって、再エネ開発には地域外の大企業が入らないこと。
この本の一貫した主張として、内製化を図ることの重要性を説いている。
事業利益が地域に落ちることが絶対条件である。
ところが、実態はどうか。
出力ベースでは78%が県外事業者の開発となっているそうだ。
それでは、燃料の海外流出は止められるが、運営費が大手電力会社から大手発電事業者に変わっただけで、地域外流出は止められていない。
② 地域脱炭素
ゼロカーボンシティを表明する市が増えている。
都道府県では41。
表明していない都道府県は、茨城、埼玉、石川、愛知、山口の5県のみ。
しかし、太陽光パネルの設置が必ずしも地域に受け入れられている訳ではない。
環境破壊、土砂災害誘発、景観破壊、廃棄処理問題など、がある。
③ 地域課題の解決
京都府宮津市のメガソーラー5MW事業。
これは獣害発生地区に設置することで、うっそうとした景観も改善し獣害もなくなる、という地域課題解決型。
この例は、地域の事業説明会では拍手まで起こったという。
この事例は宮津市がハブとなり、地元建設業やオムロンフィールドエンジニアリング、京セラが設置している。
④ 地域ブランディング
再エネの適地は地方にあることが多い。
だから、電気需要の大きい施設があるところに、再エネ発電するのではなく、再エネ適地に再エネ発電施設を作り、そこに電気需要の大きいデータセンターなどを建設する、という発想。
送電線を敷設するには1億円/kMだが、データセンターを作るのに必要な光回線は、ずっと安い。
このように、データーセンターを設置できるエリアとしての地域ブランディングを北海道の石狩市などは考えている。
まさに、逆転の発想。
都市では不可能な取組である。
⑤ レジリエンス向上
地域にある再エネを活用して、災害時の大規模停電でも自立して電力を供給できる「地域マイクログリッド」の構築である。
配電網設備に一定の追加機能がなければ、地域マイクログリッドにはならないのだそうだ。
この辺りはもう少し勉強しないと、意味が分からない。
こんなところが自治体がエネルギー政策にかかわる理由となっている。
では次は、実際に自治体がどんな取組を行っているのかを見てみる。
比較的、新しめの取組である。
〇 自治体の新施策
① 太陽光発電などの自治体主導による「共同購入」が拡大している。
これは、利用する市民は行政による安心感と共同購入による価格低下のお得感。
自治体としては再エネ化率を上げることができる。
神奈川県の例では、26%の価格低下となるそうだ。かなり大きい。
今のところ、共同購入の規模が価格に大きく影響するため、大都市に限られている。
そのため、地方都市の場合、他の自治体との連携が必要になるだろう。
課題がない訳ではない。
このスキームでは施工業者、小売電気事業者を一社に絞る。
そのため、入札では価格の叩きあいになる。
地域外の事業者が落札することになれば、地域内の事業者が被る被害も大きくなる。
そのため、地域内事業者にかかるなどの地域要件は必要だろう。
② 大都市と地方都市の連携があげられる。
再エネ適地は地方にあることが多い。
一方で大都市の方が当然ながらエネルギー需要は大きい。
市町村単位でみるのではなく、広く見れば地方で発電し、都市に送る、これは合理的に見える。
実際、東京電力の原発が福島にあるように。
考えようによっては、電力で地方が儲かっている、ともとれる。
ただ、違和感も感じる。これは、おそらく再エネに価格以上の価値を感じているからだろう。
そのため、大都市は地方に電力を融通してもらうだけでなく、雇用の創出をはじめ、エコツーリズムなどの地域活性化に資する幅広い協定を締結することが重要だそうだ。
③ 促進地域というポジティブゾーニングを設ける
促進地域とは温暖化対策の推進に関する法律(温対法)の一部改正により、再エネ導入などの脱炭素を促進するためのエリアを設定することが努力義務となった。
これまでの、再エネ施設の設置については、条例でハードルを設けるネガティブゾーニングに対し、法に基づくポジティブゾーニングと呼ばれている。
一方で、この促進地域での再エネ施設の設置には、関係法令の手続ワンストップ化があるものの、緩和ではなく、さらに、協議会設立の協議会参加など、ハードルが逆にあがる面もあって、その効果は未知数とのこと。
〇 自治体新電力の調査結果
設立目的
・エネルギーの地産地消=域内の再エネ電源の有効活用
・地域の雇用創出
・公共施設の電気料金の低減
・災害リスク対応の強化
・住民への安価な電気の供給
・GHG排出の削減
出資
・基本的に小売電気事業を主力としている会社は、資本金3000万未満
・自治体の出資割合もバラバラ
・自治体10%未満の民間主導か、2/3以上の出資で支配権を取ったり、50%以上の議決権を確保しての行政の意向反映タイプか、1/3超えの拒否権確保のパターンに分かれる
・複数の自治体出資。これは、需要規模を大きくして採算性の向上、多様な地域主体を巻き込むことができる
従業員数
・従業員ゼロというペーパーカンパニーが約半数
・1~2人が次に多く、3~4人が11社、5~10人が6社、20人以上が2社という結果。
業務委託
業務内容は
需給管理業務は電力の需要と調達を一致させる業務。
この業務を外注しているのが84%。
著者も問題視しているが、やはり委託費などとして資金が域外に流出している。
また、ノウハウがたまらず地域の担い手育成につながらない。
需給管理業務は確かに専門性が高いが、著者は数週間のトレーニングで一通りのノウハウはマスターできるそうだ。
社内で需給管理業務を内製化している企業
・ローカルエナジー㈱(鳥取県米子市)
・東松山みらいとし機構(宮城県松島市)
・みやまスマートエネルギー㈱(福岡県みやま市)
・秩父新電力(埼玉県秩父市)
・やまがた電力(山形県)などがあるそうだ。
料金請求業務も61%が外注している。
調達電源
FIT電源を含む地域の再エネ調達割合は、36%。
低い、と言わざるを得ない。
これではエネルギーの地産地消の目的を達成できていない、と言わざるを得ない。
ここでいうFIT電気の調達とは、家庭や企業が設置した太陽光の発電電力を買い取ること。
供給先
採算ラインが契約電力3~5MW程度らしい。
そのため、電力量ベースで64%が公共施設へ供給しているらしい。
たいがいは自治体と協定を結んで、入札せずに随意契約により供給先を決定している。
本日はこれくらいにして、次回、本書の後半戦を読み進めることにする。