道路、河川ときたので、今日は港湾インフラについて。
港湾というものは船が出入りし、停泊し、荷物の積み下ろしをすることができるようにする施設のことを言う。
漁港は漁港法に基づくもので、ここでいう港湾とは港湾法に基づくもので、違いがあることに注意。
港湾法に基づく港湾は1000ほどある。これを多いと見るか意外と少ないと見るかは人それぞれ。
港湾法に基づく港湾は何種類かある。
国際戦略港湾は5港・・・京浜(東京港、横浜港、川崎港)阪神(大阪港、神戸港)
国際拠点港湾は18港・・・室蘭港、千葉港、新潟港、名古屋港、四日市港、広島港、下関港、博多港 他
その他、重要港湾102港や地方港湾808港などがある。
よく釣り人が集まっている防波堤は港湾ではない。
あれは海岸施設ではあるが港湾ではない。
再度いうが、港湾とは船舶から人や荷物の荷下ろしをするところである。
船で人や荷物の荷下ろしをするケースとなると海外との交易の場が頭に浮かぶ。
そのため、港湾というと基本的には国際的な貿易をする施設を対象に話をすることが多く、このブログでもそのような規模の港湾の話をしていく。
規模の小さい地方港湾などもおそらく課題は多いのだろう。
その多くは老朽化。
事例としては今年11月、これは漁港になるが気仙沼漁港の防波堤が一夜にして延長50mに渡り海上から消え去った。
どうやらコンクリートの堤体を鋼管にて支える構造だったらしいが、鋼管の腐食で傾いたことにより堤体が海面下に沈んだものと思われている。
このように課題はあるものの、ここでは国家的観点から海外との交易に使われるような港湾を取り上げたい。
わが国の貿易とは、海に囲まれているため船か航空機でなければ輸出入はできない。
日本の貿易では、重量ベースでみた時、貨物量の99.7%は船舶である。
金額ベースでも75%を船舶が担っている。
貿易品は貨物船で運ばれてくる。
貨物はコンテナかバラ積みである。いわゆるコンテナ船とかバルク船というやつである。
この貨物の取扱量に大きな問題が発生している。
日本の経済が世界の国々と比べて相対的に下降気味なのは何度もこのブログで書いてきた。
特に港湾の現状を知ると、日本の凋落が如実に現れている。
コンテナの取扱量を見てみる。
1980年代前半、神戸港は世界第4位、横浜港も第10位と健闘していた。
それが2017年では、東京港の第28位が最も高く、神戸港は58位、横浜港も57位と振るわない。
64位に名古屋港、77位に大阪港である。
三十数年の間、港湾への投資を怠ってきたことが原因となっているが、その理由を説明する。
さて、何でこんなことになっているのか。
これは、日本の経済規模が相対的に下がっているからというのもあるが世界の船舶の大型化に港湾が対応してこなかった、ということが最大の理由である。
コンテナ船はコンテナ1個の単位をTEUで表し、1万TEUとか最近の大型コンテナ船は2万TEUの船舶も現れてきている。
このコンテナ船の大型化に伴って岸壁の水深も−16mから−18mへの港湾へと改修工事を行わなければならなくなってきたのである。
話を戻す。なぜにコンテナの取り扱い順位が下がってきたのか、それは基幹航路を中国や韓国の港湾に奪われ続けてきたからである。
基幹航路とはアジアや欧州などの地域間を結ぶ、国際海上物流の幹線として機能する航路のこと。
つまり、AとBを結ぶ幹線道路と思えば良い。
基幹航路を奪われるということは、目的地としても失うということ。
道路だけでなく目的地として日本から中国や韓国に移ったということ。
戦略的な港湾整備をしてこなかった港湾管理者の責任は大きいと思う。
現在、世界最大のコンテナを取り扱う港は中国の上海港である。
ちなみに1位から10位までのうち、2位のシンガポール、5位の韓国の釜山港、9位のロサンゼルス/ロングビーチ港を除いては全て中国となっている。
これらの港湾に基幹航路を奪われていった訳だが、基幹航路を奪われると何が問題なのか。
それは、中継輸送が必要になってくるということ。
例えば、横浜港からロサンゼルス港に荷物を運ぶ場合、一度韓国の釜山に寄って、荷物を大型船舶に積み替えてからアメリカに向かうことになる。
積み替える手間や輸送時間の増加という、とてつもなく不利な状況に追い込まれるのである。
輸出品が割高になって売れにくくなることを表している。
日本の経済が悪くなっている要因の一つは基幹航路を中国や韓国に奪われたから、というのは言い過ぎにしても、影響がないわけではないと思われる。
国際基幹航路になるには、貨物取扱量による。
貨物取扱量を増やすには大型船舶が入港できる港湾を整備すべきなのである。
ちなみに、中国は水深16m級の港湾延長は54km、韓国でも14kmある。
それに対し、我が国は5kmしかない。
それではダメだ、となる。
とにかく、手遅れ感が大きい。
さらに、コンテナターミナルの自動化も超遅れている。
貨物取扱ランキング20位までを見ると、中国の一部とマレーシアくらいが自動化していないがその他の15港は自動化をおこなっている。
ターミナル自動化とは、自動する機械によって荷役作業を行うこと。
そのためターミナル内に人は立ち入らず、全てロボットが荷役を行う。
そのようなターミナルは日本にはない。
名古屋港の一部に自動化の一部を導入している程度となっている。
これじゃあ、ダメだ、というしかない。
コンテナ物流の他にはバルク物流という言葉がある。
穀物や資源などはバラ積み状態で輸送されてくる。つまり包装されていない状態である。
このバルク貨物船もコンテナ貨物船と同様に世界では大型化が進んでいる。
特にパナマックス級と呼ばれる6〜8万トン以上の運航が全体の4割を占める状況となっている。
パナマックス級であれば岸壁水深は14mほど。
しかし、現在はネオパナマックスと呼ばれる12万トン級、ケープサイズと呼ばれる15万トン級、VLOCと呼ばれる30万トン級もある。
VLOCになると必要岸壁水深は23m程度必要となる。
鉄鉱石などはVLOCで運搬されることもある。
このように大型船舶が入港できるようにするには深い岸壁の整備が必要である。
コンテナ船とバルク船と来たので、最後にクルーズ船も書いておく。
わが国では2017年にクルーズ旅客数が250万人を突破した。
ただし、2020年には12.6万人と激減しているが、それは言わずもがなコロナウィルスの所為。
日本の最大のクルーズ船は飛鳥IIで乗客定員872名で5万トン。
それに比べて海外は乗客定員4000人、16万トン級というクルーズ船が出現してきている。
ちなみにダイヤモンドプリンセスは2700人の11.5万トンとなっている。
ちなみに、クルーズ船はバルク船と違って重量はさほどではないので、岸壁水深はそれほど必要ない。
ダイヤモンドプリンセスでも水深10mあればOK。
では、日本の港湾でも問題ないのか?
いやいや、そう簡単にはいかない。
クルーズ船はとにかくマスト高が高い。
ダイヤモンドプリンセスの場合、マスト高54m。
レインボーブリッジが桁下高さ52mなのでレインボーブリッジの下はくぐれないのである。
さらに、全長もとにかく長い。
岸壁延長も不足している。
ダイヤモンドプリンセスは全長290mほど。
それだけの長さと高さがあると風圧の影響もとんでもない。
船の上に10階建のビルやマンションが乗っかっている、という感じ。
安全に着岸、係留するにはそれ相応の施設が必要となるのだが、日本では貨物用岸壁を利用したりしているが、なかなかに理想的な状態にはなっていない。
このように日本の港湾インフラについては、数え上げればキリがないくらいに課題で溢れかえっている。
日本の貿易依存度は25%。
貿易依存度とはGDPに対する輸出入の割合のこと。
世界全体は40%程度なので、相対的には内需型の国家ではある。
が、だからと言ってGDP550兆円の25%といえば140兆円に上る。
その3/4は船舶によるものである。
船舶の物流コストは基幹航路の多くを失ったことで上昇している。
約20年間で2/3の基幹航路を失っている。
船舶の大型化に伴って水深18m級の整備を怠ったために、多くの航路が中国や韓国に逃げていったのだ。
基幹航路を失うと言うことは直行便がなくなり上海や釜山に経由しなければならないわけである。
物流コストが上がれば日本製品の国際競争力が低くなるわけで、日本人の所得が下がることと直結している。
ため息しか出ない。
もっと国家戦略を持って港湾インフラに投資すべき時に投資しなかったためである。
最後に希望も書いておく。
国も平成19年から、水深18m岸壁の整備に取り掛かった。
事業費1500億円。
平成27年に横浜港に18m水深の岸壁が完成した。
そして平成29年4月に、北米との基幹航路が開設された。
他にも国際戦略港湾には政府の出資を可能とするよう法改正を平成26年におこなっている。
政府が出資することで、広域で課題を解決できる体制をとったり、管理会社の財務基盤の強化を図ったり、設備投資を促進することを狙っている。
遅まきながらも、基幹航路奪還に向けて動き出したところである。
このように投資すべきインフラにも投資しない、というのはこのグローバル社会においては国家の破滅を招くと言っても過言ではない。
道路インフラでいえば、新規路線への投資はもうストップして、メンテナンス重視で良いと思う。
もちろん、元と同じ形のようにメンテナンスするのではなく、道路でいえば空間再配置などの工夫は必要だが。
自動運転社会が到来するとどうなるか分からない。
メタバースの浸透によっては移動距離の減少などもあるかもしれない。
空間再配置はどうしたって必要だろう。
そして河川インフラ、こちらは防災の観点から投資不要とは言えないが、整備費が膨大すぎて現実的ではない。
そして、防災ということだけなら、家屋移転を進めてもらうしかない。
人口減少社会の中、河川施設を膨大な予算をかけて防災対策することはあまりに費用対効果を無視した施策と思える。
そして今回の港湾インフラ。
こちらは、道路や河川と異なり、どんどんインフラ投資をしてグレードアップを図るべきと思われる。
一応、建設業に身を置くものとして、業界縮小方向の話ばかりでは気持ちが暗くなる。
そういう意味でも、堂々とインフラ投資をすべき分野と言って良い。
ふぅー、なんとか良い締めくくりになった。