河川というインフラ 2/2回目

先回のブログでは悲観論的な文章になってしまっている。

がもう少し、悲観的な話をしなければいけない。

河川施設というインフラが治水や利水を目的としたものであり、人の命に直結するインフラであるため、災害との関係が必ず取り沙汰される。

近年は毎年、夏になると死者、行方不明者が多く出るような水害、土砂災害が発生している。

 

建設業に身を置く者として無視できない分野であり、ブログにも災害関係は多く投稿しているが、内容が内容だけに楽天的なブログのつもりでも、この分野については暗めな記事になりやすい。

なぜなら、インフラ施設で生命や財産を守れないと分かったからである。

分かったのは国である。

令和3年5月に、第5次社会資本整備重点計画が策定された。

その計画についてもどこかでブログに書きたいが、まず重点目標の1番目に、防災・減災が主流となる社会の実現と銘打ち、防災減災のための住まい方や土地利用の推進を挙げている。

つまり、危険なところには住まないようにしろ、と言っている。

国が手を挙げて降参している。

 

 

 

先回のブログでも書いたが、2018年に発生した西日本豪雨。

これは岡山県の倉敷市を流れる小田川と髙梁川で堤防が決壊して、広域で浸水が広がったわけだが、小田川の水位を5m程度低下させる工事がまさに始まろうとしていた矢先の出来事だった。

何が言いたいかというと、河川整備のスピードよりも早く、水害や土砂災害が激甚化するスピードが上回っている、ということ。

先回も書いたが、災害はどこで起こるのか分からないので、全体的に広く整備を進める必要があるため、どうしても進捗は遅い。

河川整備はそれぞれの河川ごとの重要度に応じて治水安全度を設定して整備しているが、その整備率も7割程度である。

砂防関係施設の整備率はもっともっと低い。

明治30年に砂防法ができて以降、昭和に入って地すべり防止法、急傾斜地法ができたが、整備率はとんでもなく低い。

地すべり危険箇所は23%、急傾斜地崩壊危険箇所は26%である。

これには原因はいくつかある。

多くが民有地のため、土地の権利関係から調整が長引くことも要因だろうが、それ以上に気候変動により土砂災害などの激甚化により、対象施設がどんどん増えていることも大きい。

だから、先回のブログでも、危険地域の住民を移転させるしかないのではないか、と書いたのである。

人口が増える社会なら、新たに整備して安全に暮らせる町をインフラの力で作り出すことも益があるかもしれないが、十数年後に整備が完了した時は、ほぼ人は住んでいない、ということにもなりかねない。

これが、国がインフラ施設だけでは守りきれないと、弱音を吐いた理由の一つである。

 

 

 

少し河川施設、砂防施設を悪く言いすぎた。

インフラの素晴らしい面も見ていく。

砂防堰堤のようなインフラはしっかりとメンテナンスをしてやれば半永久的構造物となる。

一旦整備をすれば長期間、その地域に好影響を及ぼし続ける。これをストック効果というが、インフラ施設はどれもストック効果が高い。

ところで、砂防とは何かを今更ながらに話しておく。

川は水の流れだが、実は土や石、砂も流している。

山があれば川ができる。川ができれば土が削られ、下流に土砂が堆積して平野できる。

ほとんどの日本の都市はそのような土地の上にある。

そのため、大地震により山が崩壊すれば下流には大量の土砂が流れ込む。

堤防決壊のような洪水の場合、当然に土砂が街を埋め尽くすことになる。

そのため、急勾配で危険な河川の上流部に砂防堰堤が造られている。

砂防堰堤の目的は砂を貯めること。

砂を貯めることで砂防堰堤を何段にも渡って整備することで階段状になって、水の流速を小さくすることができる。

流速が小さくなれば土や砂が運ばれにくくなる。

つまり、現在、都市で安全に暮らせるのは砂防堰堤が造られたから、という言い方もできる。

 

 

もう一つ、土砂災害対策施設というものでは、道路土工と呼ばれる斜面安定施設、一般にはモルタル吹きつけや法枠といった法面が崩れないように保護する施設もたくさん造られた。

同じ地区でも急傾斜地崩壊防止施設が設置されていた場所とそうでない場所では、がけ崩れの発生に如実に違いが現れている。

大自然の前に人間は無力だというが、土木施設は果敢に立ち向かい、その場所においてはしっかりと人びとの生命と財産を守っている。

近くでみれば、人類の叡智が注ぎ込まれたのか、はたまた金に物を言わせたのか、巨大なコンクリートの塊に慄く。

それでも、そういった砂防施設はまだまだ足りなく、それが整備率20%台ということなのである。

 

 

ここで再び、悲観的な論調になってしまうのだが。

砂防施設のありがたさは分かったが、それでも、これから一から作らないといけないようなエリアでは、やっぱり住民は移転すべきではないか、と思っている。

そう思うのにはもう一つ理由がある。

気候変動である。

ここ最近、いつも「観測史上最大」「観測史上初めて」「かつて経験したことのない」といった枕詞がつくことが多い。

深層崩壊や線状降水帯という初めて聞いた言葉もある。

これは地球温暖化による気候変動の影響と言われている。

年最大降水量はほぼ全国的に増加する、と言われている。

気象庁の発表により、河川流量を予測すると年平均最大流域平均雨量は1.1倍から1.3倍に増加する。

つまり、現在の整備目標である治水安全度が変わってしまうのである。

これまで、100年に1回の大雨に耐えるよう整備してきたつもりが、今の整備では100年に1回の大雨には耐えられない、ということを意味する。

 

 

気候温暖化ついでの話をする。

IPCC(国連気候変動政府間パネル)によると、今世紀末までに地上気温は0.3から4.8℃、平均海面水位は0.3から0.8m上昇するらしい。

海面が上がると川は海と河口で繋がっているので、河口から一定の上流部は洪水時の水位が上昇する。

つまり治水安全度が下がるのである。

最大流域平均雨量の増大、海面の上昇ともに治水安全度を下げる方向に働く。

東京、大阪、名古屋の三大都市圏は0メートル地帯が広がっている。

仮にIPCCの最悪予測ケースの海面80cm上昇パターンの場合、三大都市圏の0メートル地帯の面積6割、人口4割が暮らすエリアが水没することになる。

 

 

さて、このようにインフラ整備が追っ付かないのである。

だったら、今に整備しますからもう少しお待ち下さいといって、いたずらに待たせていないで、移転させた方が良いのではないか、となるだろう。

だが、移転費用を全て補償などしたら大変である。

毎年毎年、これから数百年かけて整備するつもりが、今危険だから移転費用を補償するので移転しなさい、となったら、その補償費は毎年毎年の整備予算などと比べる全く足りない。

かといって移転費用の補償なしで強制力のある計画は作れない。

そのため、立地適正化計画という、何となく緩やかに人が済まないエリアを作っていくしかないのであろう。

 

 

住民を騙すわけではないが、ゆっくりゆっくり整備(予算がないのでゆっくりしか方法がない)をしていき、災害が来たら間に合わなかったか、ごめんなさい、と思うしかない。

それでも、緩やかに規制していき、ハザードマップなどで周知していくことで、ゆっくりと人が済まないエリアとなって行くことを目指すしかないのである。

国交省の肩を持つわけではないが、色々と考えていくと、そう行きついてしまう。

やはり、暗めのブログ基準になってしまった。

 

 

 

本当はダムなども書きたかったが、河川というインフラについては2回分書いたので、今回で一旦終了する。

文字数も3000文字を超えているので。

 

次回は港湾インフラを書いていきたい。

 

 

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