日経コンストラクションの記事で建設DXの特集が掲載されていた。
DXと書いてデジタルトランスフォーメーションと読むのだけど、コロナ禍において、あらゆる産業でデジタル化は加速化すると言われている。
先日の政府発表の「経済財政運営と改革の基本方針」いわゆる骨太の方針と言われるものだけど、この中でも、デジタル化と地域づくりを軸に据えるとされていた。
参考に、建設DXの話をする前に骨太の方針というものについてメモっておく。
骨太の方針というものが初めてこの世に出てきたのは、2001年の小泉内閣のとき。
これまでの大蔵省主導の予算編成に対し、内閣主導に改めた、というもの。
簡単にいうと、まず初めに、首相を議長とする経済財政諮問会議が経済と財政の運営の方針を出す。
この方針にそって、各省庁が予算を要求していく、その予算を財務省(旧大蔵省)が査定していく、というシステム。
そのため、この骨太の方針に記載された内容は、予算を獲得できる、ということで、各団体がこの骨太の方針に記載されるよう働きかけるという流れができた。
この原案が7月9日に発表された。
基本的な方向性が5つ示されたが、その中でも最優先政策課題とされたのが「デジタル化への集中投資と環境整備」であった。
もちろん、建設業界においてもデジタル化は大切なテーマとなっている。
日経コンストラクションが特集を組んだのも、骨太方針と偶然ではない。
さて、それでは特集記事を見てみる。
建設業務のプロセスは以下のような道をたどる。
➀調査測量 → ②設計 → ③施工 → ④検査 → ⑤維持管理
この全てのプロセスにおいて、デジタル化を進めることが重要。
次に、それぞれのプロセスにおけるDXを支える技術を見てみる。
➀調査測量
ここでは、ドローン、レーザースキャナー、GNSS測量など
②設計
自動設計やRPAにより、繰り返し行う作業を自動化すること
③施工
建設機械の自動運転、配筋作業や重量物を持ち上げるロボット、VR/ARによる施工協議
④検査
VR/ARによる非接触な打合せ
⑤維持管理
Iotセンサー付きの河川カメラなど異常を自動で検知したり、ドローンを使った点群データによる点検など
そして、これらの技術を支えるさらなる基礎的な技術として、BIM/CIMやインフラデータプロットフォーム、AI、5G、ブロックチェーンというものがある。
このブログでも、何度か書いたけど建設業界においてデジタル化が進んでいるという印象はない。
記事でもICT施工の実績ということで、建設会社の等級別の割合が示されている。
A等級では93%、B等級では87%だけど、C等級では43%、D等級は20%と中小企業ではICT施工実績は低い。
しかも、このデータは実績があるかないかだけで、常に施工にICT技術を使っているわけではない。
慣れないものを使うには、よほどのメリットがないと面倒くさく、ためらってしまうもの。
そこで、記事の中ではこのようなデータも示されている。
工事でICT施工を行った中小企業に対するアンケート。
労働者数や時間を削減できた企業の割合が80%。
つまり、8割の企業が効果を実感している。
しかし、費用対効果があったかという問いに対しては、半数が費用対効果はない、と答えている。
つまり、労働者数や労働時間を削減できたけれど割高だと感じている、ということ。
他にも、初めての取り組みは慣れている仕事より精神的に疲れる、ということも影響があると思う。
実際、大手のゼネコンなどでは特別な組織、例えばデジタル事業部のような組織を作って試験施工のような形で導入に対して現場支援の形をとれるかもしれないが、中小企業ではそんな余裕はないだろう。
普段の仕事の中で、慣れない機器の説明書を紐解きながら進めていかなければならず、特にベテラン勢からは敬遠されるだろう。
結果として、導入が進まないのも合点がいく。
とはいえ、生産性向上や働き方改革を進めるうえで、ICT活用工事の一般化はマストである。
そのため、国交省は、今回のコロナを受けてという意味もあると思われるが、直轄工事のBIM/CIM活用を原則とする方針を2年前倒して2023年とした。
つまり、2023年には3次元データの取り扱いに慣れていない企業は国交相の仕事は受注できなくなる。
この流れは、やがて自治体にも入ってきて、全国的にすべての工事が3次元データによるやりとりに変わっていくことになるだろう。
それを見越して、国交省は地方向けに「簡易型ICT活用工事」を試行している。
本来は、
3次元測量 → 3次元設計図面 → ICT施工 → 3次元出来形管理 → 3次元データの納品
という流れがフルICT工事になるが、一部のプロセスのみで3次元データを使うことも簡易型ICT活用工事として認めることとした。
認める、認めないとはどういう意味かというと、ICT活用を行った場合、完了検査後の成績標定において加点されることを意味する。
国交省は、なんとか建設DXを進めようと、ICT活用工事においては飴を用意しているのである。
よくGAFAのようなITプラットフォーマーがこれからの世界を牛耳る、といわれている。
これは大量のデータを取得していることが理由とされている。
建設DXを進めるメリットの大きなものとしてのデータ取得がある。
電子データは劣化せず、変換が可能なので、一度取得したデータは再度、調査測量する必要がなくなる。
また、変換が可能なので、色々な分野で応用することができる。
現在、設計作業においても同じような計算を個人個人が繰り返し実施している。
同じような場所で何度もボーリング調査をやるのは無駄である。
これら同じ作業の反復を機械に置き換えたり、他の機関で実施した調査であってもそのデータを保存して、再調査を不要とする発想は納得できるもの。
今年の4月、コロナ禍であまり話題になっていないが、国土交通省は「国土交通データプラットフォーム1.0」を公開した。
これは全国の地質データなどをオンラインの地図と紐づけたもの。
これから、自治体や民間企業が保有する地盤情報などと連携して、仮想国土の実現を目指す、としている。
このような仮想世界をデジタルツインといい、現実世界と同じ情報を持った仮想の世界をパソコン上で作ること。
仮想世界を可視化することで現実世界で起こりうることを予測することすらできるようになる。
ここまでくると究極に近くなるが、理屈上はそれが可能で、それを目指していると思われる。
もっと身近なところでは、道路下の埋設物の位置を正確に電子データとして地図に落としておくことで、掘削工事のたびに各管理者に照会や申請が必要だったものは簡略化が図られるだろう。
他にも、設計において、例えば、フーチング基礎の大きさを7mから10mに変えたいような場合、これまでは、大きさを変更した場合はそれに合わせて鉄筋量も配筋図も書き換えて、手で計算し直していたものが、AIが搭載された設計ソフトでは、一発変換ができるようになるとのこと。
明らかに、便利な世界が目に見えている。
今は、まさに過渡期ということ。
個々においては、この時期に苦労してデジタル化を身につける努力をすべきか、社会全体が簡単に使えるような汎用品がでてきた段階で乗っかった方が良いのか、迷うところだけど、皆が後者を選ぶような国民性なら、国家は衰退するだろう。