各部門のエネルギーの特徴を見ていこう。
産業部門。
日本のエネルギーの47%は産業部門で消費される。
前回見たとおり、製造業、農林水産・建設業である。
中でも製造業だけで44%。
なので、3%の農林水産や建設業よりも製造業を中心に見ていく。
前回のブログでも書いたが、産業部門は電力、石炭、石油、天然ガスの使用しているバランスはとても良い。
しかし、バランスが良いことが環境に良いかは全く別問題。
とにかく、産業部門は運輸や民生と比べるとエネルギー消費量が大きい。
ここで、少し立ち止まろう。
エネルギーを使うことの何が悪いのか?
それは省エネで同じ製品を製造できるなら、それに越したことはない。
なぜなら、製造単価が下がるから。
経済性を求めるのはいつの時代も同じだが、現代においては、製造単価を下げることと同じくらい・・・
いや、今後はそれ以上に留意しなければいけない問題がある。
それは脱炭素化という問題。
GHG、温室効果ガスを削減しなければいけない。
環境的な理由は過去のブログで書いている。
企業にとっては、やがて炭素クレジット、つまりCO2を排出した場合、お金でCO2排出権を購入しなければいけなくなるだろう。
もっと言えば、欧州などの企業からは、脱炭素に取り組んでいない企業は選んでもらえなくなる。
ESG投資などはその最たるもの。
つまり、エネルギー消費量が大きいことが問題ではなく、エネルギー消費量が大きいと大抵、CO2排出量が大きい、だから問題。
そのため、CO2排出量もエネルギー政策ではしっかりと考えていく。
そういうわけで、各部門についてもエネルギー消費量だけでなく、CO2排出量についてもメモしていく。
さて、製造業である。
鉄鋼、セメント、化学品の製造で大量のCO2を排出してしまう。
鉄鋼を製造するためには、鉄鉱石から高炉を使って銑鉄を取り出す。
これを高炉法という。
この工法では、粉砕した鉄鉱石と粉コークスと石灰石を1000度~1500度に加熱する。
コークスとは石炭を蒸し焼きにしたもの。
つまり、大量のCO2が排出される。
鉄鋼製造だけで国内のCO2排出量の14%を占めている。
セメントも同様に、石灰石と粘土を粉砕して、1500度ほどに燃焼してクリンカを作る。
これがセメントの原料となる。
つまり、セメントも大量のCO2を排出する。
こちらは国内のCO2排出量の3%を占めている。
他にも、化学品、半導体、セラミックスなどの製造でもCO2は排出される。
次に全体の30%を排出する民生部門を見てみよう。
こちらは、エネルギー消費量としては業務16%、家庭14%となる。
特徴としては、電力が半分以上で、あとは石油、天然ガスである。
石炭などはほとんど使っていない。
家庭やビル、などなので想像通りではある。
しかし、照明が電力を使っていても、電力は発電する段階で石炭、天然ガスや石油を使っている場合が多い。
そこは注意が必要。
しかし、エネルギーの消費の中でも電力が多い場合、CO2排出削減ではチャンスが大きい。
なぜなら、電力の製造段階でカーボンフリーにすれば済む。
しかし、石油や石炭が最終エネルギーになっている場合、容易にCO2排出削減ができない。
なので、様々な燃料を電化していく、というのは一つの重要なポイントとなる。
では、民生部門を見ていく。
こちらは意外と想像しやすく、エアコンや照明機器などが中心となる。
レストランなどの厨房では天然ガスの使用も多いだろうが。
この民生部門では、省エネ住宅が対策ポイントとなる。
ZEBとかZEHである。
ゼブとかゼッチという。
英語では、ネットゼロ エナジー ビルディングとかネットゼロ エナジー ハウスという。
イメージは、屋根には太陽光発電システムが搭載され、さらに太陽光は自然採光としても取り入れられ、高断熱や日射遮蔽によって、室内環境の維持にエネルギーをあまり必要としないシステム。
高効率な空調システムも搭載され、そしてZEBやZEHを名乗るには第三者機関の認定を受けなければならない。
省エネで光熱費が安く、冬でも暖かく夏は涼しいなどの快適なビルや住宅となる。
ZEBは4段階のグレードがある。
空調、給湯、換気、照明、昇降機などの設備の1次エネルギー消費量で省エネ基準を設けており、この省エネ基準の達成率でグレードが決まってくる。
最も低いグレードは、ZEBオリエンテッド。
これは、大規模ビルのように簡単にZEBに達しない建物用に作られた基準。
こちらは省エネ基準を事務所や学校なら60%以上、ホテルや病院なら70%以上、というような基準を達成していること。
他にも、ZEBリーディ。ニアリーZEB、そしてZEB。
最高ランクのZEBでは、建物の敷地内でエネルギーを作って、正味で100%以上の省エネ基準を達成することが必要。
少し注意が必要なのは、ZEBもZEHも最終エネルギーの消費量のみで判断される。
高効率なガス給湯器でも天然ガスを使う以上はCO2は排出される。
最近では省エネよりもカーボンニュートラルを求められるため、建物の評価としては一昔前の基準という印象は否めない。
最後に運輸部門を見てみる。
運輸部門は最終エネルギー消費量は24%。
その内、8割は自動車で、残り海運、航空、鉄道で5%。
ただし、それぞれの一人当たりの移動距離とエネルギー消費量を比べると、航空機はいわゆる燃費が悪い、という部類になるだろう。
なんといっても、航空機は1秒で1.5リットルの燃料を消費する化け物のような乗り物である。
鉄道はあれだけの大量輸送なのに、国内のエネルギー消費量は航空機や海運と変わらないのだから、とても環境に良い乗り物だろう。
では、自動車はどうか。
これはガソリン車、ディーゼル車、EV、FCV、HEV、PHEVと様々なタイプが開発されている。
それでも、HEVとPHEVはガソリンも併用しているため、海外では2025年ノルウェー、2030年欧州・・・とすでに製造禁止となってしまう。
では、EVにすべきか。
だいたい、EVの燃費は7km/kWhと言われている。
1kWhの電力がどのくらいか、イメージできるだろうか。
だいたい、1時間の消費電力量はエアコンが1kWhくらい。
1時間のエアコンの電気代で7kmくらい走行する、という感じ。
だいたい、日本全体の総走行距離が7500億Kmほどとなるため
そこから電気量を求めると1054億kWhが必要と言われている。
105400000000kWh=105400GWh
そのため、すべての車がEVになると、今よりもさらに電力需給はひっ迫する。
車に搭載する蓄電池の容量は60kWh程度。
kWhとは消費電力量。
60kWの電力で1時間は使える量。
ドライヤーが1.2kWだからドライヤー50個を1時間使える量・・・・余計に分かりにくいか。
60kWhの蓄電池で400kmほど走行できる。
4人家族の平均的な1か月の電気代は12000円ほどだろうか。
ちなみに、大体、一般家庭の電気代は28円/kWhくらい。
逆算すると、400kWhから500kWhの使用量と思われる。
車の蓄電池だと、7~8個あれば1か月の電気量を貯めて置ける。
ちなみに、家庭用蓄電池の値段は、15万円/kWhくらい。
となると、60kWhの電池はそれだけで900万円?
何か計算間違いをしているかもしれないが、それでも、普通に想像している以上の金額であることは間違いない。
とにかく
EVは1kWhで7km走行できるというのだから、EVはかなり安い。
電気代にすると28円くらい。
レギュラーガソリン5000円分で178kWh分。
蓄電池が60kWhぐらいだから、実際にはそんなに充電できないが。
178kWhで1246km走ることなる。
5000円で1200km。
今のガソリン車がリッター12kmとしても、5000円分入れると、30リットル(170円/l換算)
360kmしか走らない。
そう考えると、同じ値段で走行距離は3~4倍近い。
CO2排出量ではどうか。
当然、、ガソリンを使わないのだからクリーンな乗り物・・・・
正確には充電する電気を製造する段階で、火力発電の日本の場合は、それほどクリーンとはならない。
それでも、ガソリンよりは良いだろうが。
他にも、蓄電池の製造にはガソリンエンジンの数倍のCO2が排出されるという。
そのため、トヨタの作るPHEVと単純なEVを比較すると、本当に環境に良いのはPHEVだ、という話もある。
ただ、それでも内燃機関(ガソリンエンジン)を持つ車を製造してはいけない、という世界の潮流・・・政治的争いによって、トヨタもEVの製造に舵を切っている。
航空機ではほぼ100%が化石燃料ではないか。
しかし、ICAO(国際民間航空機関)は2021年以降はGHGを増加させない、としている。
また、IATA(国際航空運送協会)は、2050年までに2005年度比で半減させる、と言っている。
しかし、電動化はまず無理だろう。
蓄電池の容量がまったく足りない。
何といっても、大型ジェット機は1秒間に1.5~2リットルの化石燃料を使う。
車のタンク40リットルを満杯にしても20秒でなくなってしまうほどの燃費である。
燃費15km/ガソリン1リットル
走行距離で600kmは走行できる。これが、現在の自動車の蓄電池の限界くらい。
飛行機はこの蓄電池を何個用意すれば良いのか。体積や重量が合わないだろう。
最近では、SAFというバイオ燃料の開発がさかんである。
また、エアバスは2035年までに水素燃料の航空機を市場に導入する、と公表している。
そのためには、水素を供給できるサプライチェーンの構築がかかせない。
おそらく、現在はそれだけの量の水素を製造または輸入できるシステムはない。
川崎重工が水素運搬船を製造している。
オーストラリアから液体水素を輸入するという。
このあたりは、商社も絡んできて、大きな動きになるかもしれない。
当然、水素社会の到来、といわれており、自動車、その他の燃料としても燃料電池としても活用されていくだろう。
今回は、産業部門、民生部門、運輸部門でのエネルギー消費量、CO2排出量を見てみた。
次回は、電力の基本についてメモしていく。